新商売?

「札幌市の昭和」という写真集を予約までして手に入れた。写真と説明文を読みながらパラパラめくっていくうちに、ちょっとした違和感がどんどん増幅してくる。どうしても腑に落ちないので、出版社をネットで検索した。
ハハァ、そういうことか。騙されたとまでは言えないが、うまく乗せられたといったところだ。入手の経緯から本の内容までよくよく考えると、乗ってしまった自分がちょっと腹立たしい。

まず、この写真集を知ったのは北海道新聞1面下段の書籍広告で、刊行記念特価9990円限定3千部予約受付中とあるのを見て、その日の帰り道に書店に寄ってすぐに予約した。そして予約したのをいいことに、発売日からかなり遅れて引き取りに行った。思えばその時からヘンだったのだ。
札幌の人口規模から見て3000部は入手困難だから予約は必須と思いきや、書店入口にはあろうことか山積みになって残っている。数ヶ月経った今でもだ。ここでまず残部僅少で引き付ける商法にハマったことになる。
内容に付いても違和感は増す。懐かしい昭和とはいっても、三十年代後半からはカラー写真が一般化したのに、全部がモノクロで色刷りは目次前の数ページを除いて全く無い。地元の郷土史家が監修したことになっているが、写真と説明文があきらかに違っていたり、一般から募集したという写真は大量の集合写真。それも購買者をターゲットにしたかのように昭和40年代までだ。

新潟県長岡市にある<いき出版>のHPを見ると、これが新手のビジネスだとよく分かる。最初のうちは新潟県内や周辺から、だんだん全国に手を拡げている。鶴岡、柏崎・刈羽、金沢、郡山、会津佐渡。それから、川崎市千葉市、世田谷、横浜市彦根、石見、札幌、福井・・・・。これらの写真集が全て同じ装丁で、カバーと帯の地名と背景写真だけ差し替え、定価も全部9990円という。

この手の写真集は、本来、大切な記録と記憶であり、少々高価であっても子や孫にも残しておきたいと思えるような1冊であるはずだ。多くは関わった人達の手弁当と熱意の集積で、価格に見合った利益が出るとは思えない。それでもその土地と歴史を己のアイデンティティーとする人たちにとってはかけがえの無いものだ。完成度の低いこんな本でも、それが作られた地域では、タイミングを考えるとしばらく発行されることは無いだろうし、地道に取り組む人達の仕事に水を差す。
コストを抑えて上手に儲けることが商売の定石とは言え、郷土愛を持ない者が、その土地の大事な歴史に手を突っ込むのは如何なものかと思う。