遅い春


冬も半ばを過ぎてからの大雪と低温は、4月後半になってもまだ春を押し留めて、容易に季節を進めようとしない。
南向きの斜面や道路上の雪は解けたが、日陰や窪地にはまだ気が滅入るほどの雪が残っている。

雪の下だった枯れ野が一冬越した姿を現した。
地上から1メートルまでの、全ての若木の樹皮が白く剥がれている。暗く覆われた地表と積雪の間に、エゾヤチネズミ達の春を待ちきれず飢餓に喘ぐ混沌の街があったのだ。
画像では見えないが、土と雪の間には草を食い尽くしながら進んだトンネル状の跡が縦横無尽に残り、あちこちにクルミの殻が散らばっている。
秋のうちに巣穴に大量に貯め込んだドングリを喰い尽くし、湿度100%の雪の下を這い回って草を喰いクルミを探し、待てども見えない春に、とうとう木の皮を喰うしか命を保てなくなったのだ。

伐採跡の荒地にワッと出てきたアカシアのひこ生えは、樹皮を食われて芽吹くことなく全てが枯れてしまう。アカシアばかりではない。大雪だった今年、たくさんの種類の木がネズミやエゾシカに樹皮を喰われて痛々しい姿を野山に晒す。
雪の上で暮らすユキウサギやエゾシカは、まず口が届く範囲の若枝や冬芽を広く移動して喰い、飢餓に勝てなくなれば特定の樹皮に向かう。一方ネズミたちは雪の下にいて移動範囲が限られ、行き当たった木に取り付いたら、それがイタヤでもナラでもニワトコでも、とにかく雪の中の樹皮を喰い尽くす。
部分的な食み痕なら数年すれば皮が盛り上がって樹が自分で修復するし、かなり広くやられて木質があらわになっても、何処かで樹皮が繋がっていればなんとか生き延びるのだが、一抱えもあるような大きな木でも、幹の周りをぐるっとやられると梢と根の繋がりを絶たれて確実に枯死する。

例年よりも遅い春の訪れは、全ての命の営みに試練を加える。
冬ごもりしないアライグマが餓死していたと知人が言う。飢えてふらふらしていたエゾタヌキが轢かれて死んだ。冬眠明けのヒグマは厚い雪が残る山から食い物を求めて低地に彷徨い出る。
牝のキタキツネ、ルルの出産が少しでも遅くなるのを祈るばかりだ。

今朝は真っ白い冬の景色。昨夜からの雪がまた季節を後戻りさせた。