かすみ桜

半月遅れでいっきに満開になったキタコブシやエゾヤマザクラに負けじと、艇庫の横のかすみ桜が八分咲きになった。
どれだけ待ちかねていたものか、例年ならコブシの花が終わってからモジモジと咲きはじめるというのに・・。

20年前、花材屋さんで捨てられる運命だったこの桜。太目の指くらいの幹に葉っぱが数枚でヒゲ根も少なく、ダメもとでもらって植えた3本のうちの1本だ。他の2本はネズミに齧られ雪に折られて、花をつけることなく絶えていったが、コイツだけは今では80センチを超える幹周りで、よじ登れるほど大きくなった。

苗として売られていたくらいだから、もともとこの桜は北海道に自生するものではない。
エゾヤマザクラのエネルギッシュさは無いし、同じ移入種のソメイヨシノの豪華さも無いが、「かすみ桜」の名に似合った奥ゆかしさながら、それでも一年がまた始まる喜びを静かな興奮で必死に伝えようとしている。


悪天と寒さで春が遅かったせいか、里山の春を一番最初に教えてくれる足元の花達に元気がない。青から紫のエゾエンゴサクや紅いカタクリキクザキイチゲの白やフクジュソウの黄金色。スプリングエフェメラル=春の妖精と呼ばれるこれらの花達が、よく見ると咲いてはいるのだが、ほとんど目立たないまま消えようとしている。

ちからなく花を終え、これから伸びてくる他の草花に隠されてしまうまでの僅かの間に精一杯太陽とコンタクトして、夏までには地上部を消して来春のチャンスを待つ。

たかが野草だが、毎年見ていると、ずぼらな観察者にも真剣に生きていることが痛いほど解る。