なじみのカラス


工房周辺をテリトリーにするハシブトガラスの夫婦がいる。
近くに走る送電線の2スパン分、150M間隔で建つ3本の鉄塔を中心線に置いた、直径300メートル位が彼等の縄張りだ。
オシドリならともかく、カラスも一旦つがいになったら一生添い遂げるものか、確かなことは調べてみないと判らない。だが、このカップルはもう5年目になるのに、ずっと連れ立ったままだ。子育ての為の巣を架ける場所は、鉄塔の上だったり尾根のカラマツの梢だったりと毎年変わるが、生活パターンと夫婦関係は何年経っても変わらない。

真っ黒いだけのカラスの個体識別ができるのかとよく聞かれる。確かにたくさんのカラスを識別するのは困難だが、この常連夫婦だけはすぐに判る。ちょっと大柄で太い嘴の付け根に少しコブのような脹らみがあるヤツがオヤジで、すっきりした体型で頭も小さく、必ず一歩下がった位置にいる方が母さんだ。(写真は小さなカタツムリを咥えたこのメス)
普段はすぐ傍まで寄って来るくせに、カメラのレンズを見たらすぐに飛び去ってしまうから、なかなか写真には撮れないし、撮ってもただ真っ黒でぜんぜんフォトジェニックじゃ無いからその気にもならない。レンズにだけは異常な神経質ぶりのコイツらだが、その性格のあつかましさ、図太さ、やかましさは、付き合うほどに呆れさせられる。

「旦那、旦那ァ、さっきはクマだったけど、こんどはキツネがこっちに来ますぜ。」
「あのう・・こないだみたいにィ、弁当のおかずの鮭の皮なんかあったら投げてくれませんかねェ。」
「あんたァ!卑しいハシボソたちが道端に集まってる。さっさと追っ払ってよ!」
「ほら、またトンビがウチの巣の上を回ってる!早く帰んなくちゃ。」
ただ、ガーガーギャーギャーとうるさいだけだが、慣れるとその耳障りな声と行動の中に、伝えようとする意思が見えてくるから不思議なものだ。

早朝と夕刻のいっときだけは連れ立って街の方へ出かけて留守になるが、その時間以外は縄張りの中にいて、侵入者を排除したり、エサを探したり、巣作りの材料集めをしたり、けっこう忙しそうに暮らしている。

さっきは気持ち良くまどろんでいるルルにオスが後ろからそっと近寄り、ふさふさの尻尾の毛をいきなりボソッと抜き取って巣に持ち帰った。