虫との関係

本州各地からはいまだに聞き飽きた猛暑のレポートが続くが、お盆を過ぎた北海道では、朝夕の空気にひんやりした秋の気配が混じるようになってきた。
昼間の数時間こそ、動くと汗ばむ夏の暑さが居座っているが、窓の外のタンネの緑は深みを増し、クルミの実もすっかり大きくなって垂れ下がってきた。

道内各地で、今年はカシワマイマイという中型の蛾が異常発生しているという。工房周辺でもたしかにマイマイガは多いが、そう言われれば多いかなという程度で、異常という程ではない。どんな昆虫でも大量に蠢く様は気味悪いが、研究者によれば7年から10年のサイクルで増減を繰り返すそうで、突然に増える訳ではなく、ピークの年に向かって徐々に増えているという。しかしそのクライシスの理由は判らないそうだ。

振り返ってみると、山の中の工房では毎年いろんなムシたちに仕事の邪魔をされる。
春先には前年に大量繁殖した冬眠明けのカメムシテントウムシが飛び回る。よ〜く思い出してみるとそれも毎年一様ではなく、エゾオオカメムシ、スコットカメムシ、ムラサキカメムシと年によって違うし、テントウムシもカメノコテントウだったりナナホシテントウだったりする。更に考えるとそれぞれ対象の餌や食草が違っているのだ。自然のシステムはどれだけ複雑に関係しあっているというのか。

今年に関していえば、エゾシロチョウやヒカゲチョウは少なかったが、7月半ばからはチャバネセセリという蝶にさんざん吹き付け作業の邪魔をされた。蝶の仲間ではあるが小さい羽根で忙しく羽ばたきながら、まるで特攻隊のように吹き付けた樹脂に向かって突進してくる。セセリ蝶はネバネバの樹脂にまみれて一巻の終りになるのだが、そのつど作業もやり直しになる。2週間ほどで姿を消すのだが、食草があたり一面無尽蔵にある笹なので、増減はあっても必ず毎年この時期には悩まされる。この時期といえば、例年必ず軒先や小屋裏に大きな巣を作るスズメバチを見かけないのが幸いだ。

変わって今はフキバッタだ。名前の通りフキの葉を食うヤツで、餌を探す必要が無いほどフキは何処にでもあるので、羽根は退化して無くなっている。そのかわり跳躍力だけは抜群で、窓や入り口から飛び込んでくるし、追い出そうとしても物陰に入って出てこない。

仕事に直接の支障はないが、今年はトックリバチの当たり年のようだ。どこからか泥団子を作って運んできて、たたんだシャツのポケットの中やカーテンのヒダ、壁に掛かった帽子の裏から壁の隙間にまで、ここと決めた場所にトックリのような泥の巣を作る。半ば完成すると餌になるイモムシを麻酔状態で運び込み、卵を産み付けて蓋をする。
やがて幼虫が巣立ったあとは、小っちゃな素焼きのトックリが残るだけなのだが、問題は制作期間中のガラス窓。正露丸ほどの泥饅頭を運んで、ここと決めた窓や入り口に飽きずに繰り返し突進する。おかげで工房の全ての窓は茶色のツブツブだらけ。
もう少し涼しくなったら、窓をきれいにしよう。