それぞれの冬

誰かれとなく、ちょっとした挨拶代わりに「いやァ、雪少なくて楽だねェ」と言葉を交し合っていたのもお正月まででした。先週半ばから3日続いた降雪で、工房の周辺は一気に1メーターを超す雪原となり、あまり嬉しくはないものの、見慣れた真冬の景色が広がっています。

今年も南向きの斜面にはエゾシカのオスたちが集まってきました。といっても、大きな群れをつくるのは強い牡に率いられた子供や牝達で、ここで厳しい冬の間を過ごしているのは、それが叶わなかった淋しいオスたちです。
陽当たりが良く雪もあまり深くない斜面を見つけたものの、お互いに牽制し合い、かといって心細さはふっ切れず、広い林のあちこちに付かず離れず散らばって灌木の冬芽や木の皮で命を繋ごうとしています。
吹雪の中、すさぶ雪のカーテン越しに、まるで根の生えた木になってしまったように動かず耐えている牡鹿が見えました。無彩色の枯れ野の中では色によって識別することは困難ですが、目が慣れてくるとジッとして動きが無くてもそのシルエットで判ります。立派な角の頭から背中まで雪を乗せ、目は固く閉じたまま、鼻腔も半分ほどに縮めて呼吸すら控えているような気配は、まるで無我の境地に入った高僧を思わせます。

冬眠したくても出来ない小鳥たちは、青く葉を茂らせた松やモミの樹の幹周りの小枝に止まったまま、襲いくる雪つぶてや強風をやり過ごします。
今日は久しぶりの青空の下、歓びに地鳴きを繰り返しながら、樹皮の裏や枝先に食べ物を探して飛び回りはじめました。クマゲラもひときわ甲高くキョーーンキョーーンと声で存在を知らしめています。

山の工房に移って20年以上になりますが、この冬は初めてエゾアカネズミに気に入られたようです。かつてそり犬たちが何頭もいたときには、ドッグフードのおこぼれ狙いでエゾヤチネズミたちがよく顔をみせていましたが、そんな食べ物もなくなったせいかこの数年はあまり目にしなくなっていました。
シッポが短くやや黒ずんだヤチネズミに較べ、アカネズミはその名の通り体毛が明るい栗色で、何よりシッポの長さが身体と同じくらいあって、ネズミとしてバランスの正しい体型です。多少でも暖かいのか、冷蔵庫の下が気に入ったようで、クリクリのまなこで気配を窺いながら出たり入ったり。
 「おんちょろちょろ・・」でも唱えてやりましょうか。