受難


この冬、増え過ぎたエゾシカによる被害が、とうとう市街地に隣接したSさんのリンゴ園に及び、全ての木が樹皮を喰い剥がされてしまった。ここまでやられるとどう手当をしても枯死が免れない。去年までに別のリンゴやサクランボの畑を全部やられ、放棄して更地にすることを余儀なくされた果樹農家にとって、どれほど腹立たしく悔しい思いであることか察するに余りある。
座して食害を観ていたわけではなく対策は打たれている。
道路沿いは何十年も前からのオンコ(イチイ)が3メートル近い立派な生け垣になり、他の三方は太い針金を縦横に張った柵で囲われた。しかしその生け垣もシカの首が届く範囲で小枝や葉を食い尽くされ、積雪によって低くなった柵も容易に越えられてしまう。
住宅地に近いので発砲することもできず、自分と家族の生活が野生動物によって蹂躙されていくのを、ただ見ているしかないのか。もし自分がその立場だったら、他人の意見や法の縛りを振り払ってでも戦いを選ぶかもしれない。

かたやでそのエゾシカたちに悪意は無く、ひたすら飢餓に耐えて命を永らえようとしただけなのだ。
すべてがその時々の人間の都合とはいえ、天敵だったエゾオオカミを駆逐し、伐採や開墾によって生息適地を広げ、ハンターの減少と高齢化で狩猟圧の低下を招き、加えて地球温暖化までがその増加の原因にされている。
産まれて来た命が生き続けようとするパワーと、我々はどう折り合いを付けるべきなのか。


以前オスのエゾシカが力つきた画像をUPした同じ場所(2013年2月13日記)。道路沿いのこのオンコも、やはり同じように樹皮が食害を受けて黄色い木質があらわになり、ほとんどの木が枯死を待つだけになった。