シゴト

写真家であり映画監督であり獣医師であり文筆家でもある竹田津実さんは、長年の仕事の積み重ねでキタキツネの存在を身近なものとして定着させ、それまで「北海道といえばヒグマ」一辺倒だったイメージまでも変えてしまった。
そのキツネの先生が、おそらく一番やりたかった仕事としての写真集「AFRICA」をまた読み返した。そして、また仕事というものの本質を、ズンと突き付けられてしまった。

たくさんの著作があるなかで、この本だけは格別な思い入れがあるようで、「これはボクのワガママのかたまりなんですよ」と自嘲気味にその話題から引っ込めようとするとき、至福の笑みが顔面に出ることにおそらく本人は気付かれていない。
子供の頃からの憧憬だったアフリカに、「家が何軒も建つほどのお金を使ってしまいました」と言いながら30回も通い詰め、自分なりの句切りとしてして平凡社から出版されたこの写真集。
自分でも法外なと言う1万円という価格で、他人の評価も採算も気持ちいいほど全く無視。アフリカを掴もうとする画像や文ではなく、かの大陸に身を置くことの満足感に溢れたこの本を読み終わって閉じるとき、竹田津さんの幸福感が乗り移る。
外部の評価とは関係なく、ひとりおのれが納得できる人生のエポック。この人にとってはこれがその「シゴト」、いや、やらねばならないコトだったのだ。
亡き父親の幼なじみの親友に、画家で文筆家で数学者の安野光雅さんがいる。
竹田津さんがこの安野さんを勝手に師としているように、私も無届けながら竹田津先生を師と呼ぶことにする。