雪虫


13日の夜、街なかでは冷たい秋の雨でしたが、翌朝の工房周辺ではあたりが白くなっていて、この日がやや早めの初雪ということになりました。
大気の冷え込みに対して木々の紅葉は遅れ気味で、緑色と黄色とがせめぎあっていますが、冬の気配はすぐそこまで近づいています。

ここ2日ほどは気持ちの良い晴天で、本当は11月に現れる小春日和のことをいうインディアンサマーのようです。急な冷え込みと入れ替わりの暖気に雪虫たちも今朝は大慌て。まるで降り込める粉雪のように行く手に立ちこめています。たまたまクルマに積んであった標準レンズのカメラでは上手くとれませんが、煙のように霞む前方が判るでしょうか。
ゆっくり走っていてもフロントガラスはメリケン粉を振りかけられたように真っ白です。
わずか数ミリの雪虫ですが、雪を告げる使者としてこの北国ではあまりにも有名で、トドノネオオワタムシという本名なんか知らない人でも、条件反射で冬がそこまで来ていることを悟るのです。
そんな雰囲気に急かされるように、リャーリャーと梢でカケス達が鳴き交わし、エゾリスもいつになく速い動きで走り廻っています。

陽が陰ってからの里山は急速に冷え込み、夏には無かった静けさがあたりを支配します。
暗闇の中からピーーイユーーッ!と、甲高く哀切なシカの声が空気を切り裂くようにときどき響き渡ります。暗い森の中でその姿を認めることはできませんが、樹冠の先の星の瞬きを見上げながら、鼻先を突き上げて寂しい気持ちを吐き出しているのでしょうか。
その切っ先に冷たく青い光を溜めた細い三日月を、地上の暗さと静けさが引き立てています。