芽吹きの前

6〜7年? いやもっと前だったでしょうか。何年前だったかはおぼつかないものの、暗闇に響き渡る木々の悲鳴だけは、今でも耳の奥にはっきり残っています。
10月の末、晩秋のことでした。
音も無く雨がしのついていましたが、夕方から地表近くに強い寒気が入り込み、まだ葉を落とす前の木々の梢から過冷却による結氷が始まったのです。
やがて雨はみぞれから湿雪にかわり、凍りついて重くなった枝葉の上に降り積もります。
その重い雪が20cmを越えた頃からです。氷と雪の重みに耐えきれなくなった木々が、バキッ!ベキッ!と悲しい音を響かせはじめました。

樹齢50年くらいとおぼしき、直径30〜40cmもの幹がへし折られるほどの重さとは一体どれほどの力でしょうか。

放置されたままの森では、すでに人知れず更新が始まっています。倒された木の樹冠があったところから林床に陽が差し込むようになり、出番を待ち続けていたハリギリやミズキやアカシアの若い木がいっせいに伸びはじめました。
その林床の木々が芽吹き始めると、森は見通せなくなり、朽ちはじめたたくさんの倒木も見えなくなってしまいます。
この時期だけの風景を見ながら、ぼんやり考えています。
あと何年したらこの倒木たちが土に還るのかと。