憎まれっ子世に憚る?

この半年あまりのアメリカ大統領選挙を見聞きし、世界中の識者の予測を覆してトランプ氏の勝利を突き付けられた時、頭に浮かんだ言葉は<憎まれっ子世に憚る>だった。
他人に憎まれる者ほど世間で幅をきかせると古来から云われてはいるが、これほど見事に証明してくれるとは。

無礼で傲慢で非常識で下劣なあんな男が次期大統領?アメリカンドリームを体現した成功者かもしれないが、たとえ計算ずくのヒールだとしてもその前に人としてアウトだろう。決戦投票まで勝ち残ってきたのは何かの間違いだ、最後に米国民が選ぶのは彼ではない。
そんな大方の予想をひっくり返したのだから、何億もの人がしばらく唖然としたのも無理はない。
ありえない選択をしたこの国に失望し、無気力感からカナダやオーストラリアなど他の英語圏に移住しようとする米国民達がいる。ニュージーランドのイミグレーションでは移住手続きの問い合わせが25倍に膨らんだそうだ。

疎ましく思われようとも、みんなが口に出さない本音をスローガンに、大きな声で敵を罵り、実現不可能でもはっきりと約束する。「利己主義のなにが悪い、みんな幸せに豊かに金持ちになりたいんだ、そもそも人間なんてみんなエゴイストだ。アンフェアだって構わない、他人に何かをしてやるなんてまっぴらだ、まず俺たちが一番だ!」
めったに選挙になど出かけない、都市部以外の白人中間層がこの代弁者に動かされたようだとの分析が有力だ。

決定直後こそ失望からドルが急落したが、本音の勝負の方が案外いけるかもしれないとの期待と読みで株価もあがっている。これまで積み重ねた国のありようを破壊して、逆行する保護主義に一気に向うのだろうか。
ポピュリズム大衆迎合はトランプ現象に留まらない。欧州でも移民排斥やユーロ離脱の動きが目立ち、各国で右翼政党が急進しているという。

「それを云っちゃあおしまいよ」という慣用句があるが、「本音を言って何が悪い」との言葉にかき消されそうだ。
我が国を振り返っても、リーダーたる政治家が経済最優先を唱えるようになって久しい。