吊り橋二題

札幌市を南から北へ貫く、石狩川支流の豊平川。上流域が幾分緩やかになって中流域が始まるあたりに<十五島公園>という河川敷の公園があります。その名にあるように、流れの中から幾つもの岩が島のように顔を出し、渓流の趣を楽しめる古くからの名所として知られています。
初めて立ち寄ったのは今から40数年も前になるでしょうか。
その頃ここは市内の中学校や高校の炊事遠足のお決まりの場所で、札幌の子供達はこの河原で火を熾し、カレーライスやジンギスカンを楽しんだものでした。
ゆとり教育の時代が終わり、そんな賑わいもあまり聞かなくなったようですが、今でも公園の駐車場の一画には売店があり、お休みの日やお天気の良い日には炭とか肉を売っています。

そんな公園の脇を、この四半世紀毎日のように通りながらも、立ち寄った覚えがありません。何年か前にこの公園の中の吊り橋がリニューアルのために工事中だったのを思い出し、気まぐれ半分にのぞいてみました。
人と自転車用の細い吊り橋を渡った流れの向こうには人家が少なく、車社会になった今では生活の為にここを渡る人はありません。まあ河川敷公園のアクセントといったところでしょうか。

こんな橋を見かけると、つい渡ってみたくなるのは何故でしょう。
短い橋ですし、蔦と丸太で作ったような危なっかしいものではありませんが、誰も渡る人がいない橋をゆっくり歩きながら、足裏にフワフワとした懐かしいような優しい感触を覚えました。
体重が掛かった分だけゆっくりと沈み込み、重さが消えるとまた静かに復元する、まるで高層湿原のミズゴケの上を歩いているようです。

想い出しました。ちょうど1年前。バンクーバー郊外のエル・キャピラノ・ハンギングブリッジを渡ったときにもこんな感触でした。

1日に数千人が訪れる観光名所なので、強度充分のしっかりした吊り橋ですが、長いだけあって上下動の振幅が大きく、まるでひと昔前のアクティビティのようでした。
40年前にここを渡った時にも団体旅行の大阪のオバちゃんたちが、同じ日本人の我々に気付くことなく、「ぎゃ〜〜っ!あかんあかん、ゆらさんといてエ!」と大絶叫。今回もやっぱりいかにもアメリカ中西部の田舎から来たような母さんたちが絶叫また絶叫!(何て言ってるかなんて判るわけない、でもこんなときの言葉の中身はおんなじなんでしょうね)