ミスマッチ!

ものには相場というものがある。
原材料価格と製造コスト、それと流通・販売の手数料、さらに応分の利益を加えたものが適正価格ということであれば、この子供用のソリは明らかにその枠組みから外れている。

そもそもが製品にするつもりなどほとんど無く、我が孫たちを乗っけてやりたい想いだけで作業を進めてしまったのだ。ただハンドルだけをつけた手押しソリから、4点式シートベルトや風防付きのカウル、それに雪の無いところではカートにもなるキャスターをセットしてなかなか面白いものが出来た。

何台か作って身近な人に使わせているくらいの時点では、いくら手間が掛かっても笑顔をみているだけで良かったが、販売店の店長にこれを販売する話を持ちかけられたときにハタと気がついた。これをまともな工賃や手数料を加えた設定とすると、10万円を大きく超える販売価格になる。
それでも本当に良いもの、ほかに無いものは高価でも欲しい人が必ず居るというが、根がビンボー人の自分的にはたかがソリと思えば罪悪感さえ感じてあり得ない価格だし、もし金があっても絶対に買わない。

「どうせこんなもの店に置いたって買う人なんかいないし、まあ展示スペースが面白くなるだけでもいいか。」とタカを括ってやってみることにした。
常識を度外視して手間賃は赤字でも良しとし、店側にも薄い利益で販売価格を設定してもらった。

以来5シーズンが過ぎ、意外と言ってはオーダー頂いた方に失礼だが、毎年何台か注文をいただく。
小さくてもシーカヤックを作るのと同じような手間が掛かるし、全てカラーオーダーによる受注生産なので即応スタイルはとれないが、手元に届いたときの注文主(これに乗せられる幼児ではなく、ご両親やおじいちゃんおばあちゃん)の笑顔がありがたい。

「ウオッ!スゲ〜!こんなの見たことない!ソリのランボルギーニだ!!」
「◯◯ちゃん、良かったねー。これに乗ってお買い物に行くんだよ〜。」

気持ちのどこかで注文が来ないことを願いつつではあるが、まあ、特別な笑顔がもらえたと思うことにしよう!