森が危ない

夏が長びいたせいで暦が半月以上も遅れているようです。工房周辺の木々もさっぱり紅葉が進まず、まだほとんどの木の葉は落ちもせずに青々としています。

そんなのんびりムードの地上のものたちを置き去りにして、気温だけが冬に向かってピッチを上げてきました。周りの山の頂は白くなり、峠を越える国道も何度目かの積雪状態になって、ほんの1ヶ月前に積丹の海でカヤックを漕ぎ、仲間が泳いでいたのが信じられないほどです。

こんな状態で初雪を迎え、その湿った雪に痛めつけられて周辺の森が大きな被害を出したことがありました。

数年前の今頃。今年と同じように色付き始めてはいたけれど、その葉を落とす準備が整う前の森が白い災いに被われたのです。朝から降っていた雨が夕方にはみぞれ混じりに換わり、暗くなってから急に入り込んだ強い冷気が、葉に付いた水滴を氷にしはじめます。降り続くみぞれは葉先に触れて氷になり、みぞれはだんだん湿った雪に変わって、朝までに30センチの積雪になりました。

氷と雪は葉っぱどうしをくっ付け、枝どうしをくっつけてその重さで樹冠を地面に押し付けたのです。大木が弓なりの曲線を描き、耐えきれない幹が悲鳴をあげながら次々に折れました。梢ではなく、一抱えもある幹や太い枝が折れるボキッ!バキッ!という音が夜通し響き渡り、一夜明けた里山は、まるで映画の特撮で身長50Mのゴジラがのたうち回った跡のような、凄まじい景色だったことを今でもはっきり想い出します。

北国の冬にあって、30センチ程度の雪は自然にとっても人間にとっても取るに足りない日常の事です。でもそれは冬を迎え入れる態勢ができていればこそ。

木の葉たちはひと夏の役目を終え、色付きながらその葉柄の下に来春の芽が出来たことを確認して落ちていきます。軽く手で触れたり、ちょっとした風で木の葉が落ちたときは、その葉の付いていたところをよく見て下さい。小さな新芽がちゃんとできているはずです。

雪と寒気の冬をやり過ごすために、木々は必要の無くなった葉を落とし、堅く縮こまった小さな芽で次の春に備えます。

なんとか伝えてやりたいものです。「オーイ、早く葉を落とせ。もうそこまで冬が来てるぞォ」