ヤマモミジ

今年の紅葉の不甲斐なさを昨日ぼやいたばかりだが、がんばって紅の極みに届こうとしている街路樹のヤマモミジに出会った。
このカエデにはたくさんの種類があるが、葉っぱのかたちに特徴があることから誰でも知っているし、亜寒帯から温帯にかけてこの仲間は世界中のどこにでもある。
冬に葉を落とす前の鮮やかな紅葉が、古来より歌に詠まれるほど日本人の深層や色彩感覚に大きな影響を与えているのも否めない。
不景気風と個人主義のせいか最近でこそあまり聞かなくなったが、およそ風流とは縁遠い北海道民でも、この紅葉の時期に「観楓会」と称する行事が欠かせなかったものだ。(もっともたいていは忘年会の予行演習のようなもので、温泉に泊まって夜更けまで呑んだくれるのが目的だから、せいぜい行き帰りの車窓から目にするくらいのもので、まともに紅葉狩りなどやった記憶は無い。)
このヤマモミジと同じく、ハウチワカエデやイロハカエデなどのもみじが庭園や公園に植栽されているのをよく見かけるし、和風な空間にはつきものとも言えるほど定番のアイテムだ。

とっておきの楽しみがある。鮮やかに色づいた葉を落ちる前に枝から集め、それ以上乾燥しないように中身の見えるポリ袋に入れて冷凍庫にいれておくのだ。そしてたとえばお正月、素敵に盛り付けられた料理の脇に一葉。あるいはおいしそうな押し寿司の上に一枚というのはどうだろう。食卓の雰囲気作りばかりではない。押し葉にしたものをハガキや色紙に貼り付け、その葉の上から全体に木工ボンドを薄く塗る。ボンドが乾いたら透明な膜になって出来上がり。
モミジだけでなく、イチョウやイチゴなど色や形に特徴ある葉を使うのも面白い。

紅葉の時期だけ注目されがちなこのモミジの仲間だが、ちょっと近寄ってみると一年中何がしかの心地良さをくれたり、興味を湧かせたりしてくれる。
長い冬を裸で耐え、枝先の赤い芽を春に向かって膨らませ、そして春5月、待ち兼ねた若葉がいっせいに芽吹く。新緑のやさしい色の影には小さく目立たない花が咲き、やがて2枚の羽を持った奇妙な翼果となって回転しながら飛んで行く。若葉の頃にはその木漏れ日がすがしい温もりをくれ、盛夏には涼やかな葉陰を作ってくれる。

そんな馴染み深い木なのに、その樹勢にまとまりがなく、街路樹に要求されるような均一な管理がし難いので、あまり街並みでの利用は多くない。在来の種にあまり人工的な使い方は似合わない。「やはり野に置け」ということか。