真夏日に・・

両方の耳から容赦無く侵入する無数のコエゾゼミのジーーーッという鳴声が、頭の中の後ろ側で共鳴し、周辺の、そして吸い込む空気まで熱してくれています。まるで、広島の、また長崎のヒバクの日を思い出させるような暑さです。
したたる汗が目にしみ、顎の先から滴り落ちるとき、眼をつむったまま下を向いて山の涼しさを想う自分がいます。

例えば、白雲岳避難小屋うら手の水場。
秋まで残る雪渓は少しずつ解けてガレ場に滲み込み、一度地中に隠れた後に再び勢い良く岩の間から噴き出します。絶え間なく湧き出る水をしびれる両手で口に運ぶと、ここにしかない冷たさで咽の奥の後頭部に疼く痛みを残してくれるのです。
例えば、日高山脈の盟主、幌尻岳の北カールに突き上げる七の沢。
幌尻山荘の前から沢に入り、ナメ滝の真ん中をジャブジャブと進み、釜があっても捲かずに飛び込みます。大滝も敢えてへつらずにシャワークライムで乗越し、そして涼風吹き渡るカール底に飛び出して、更なる高みを仰ぎ見るのです。
例えば、山上のテン場で目覚めた朝。
眼下の沢から吹き上げる冷気に身を縮めながら、雲海の向こうから差し込む陽光に顔を向けて少しの暖かさをもらいます。身支度を済ませて歩き出す頃には、徐々に上がってきてあたりを覆いつくしてしまった冷たいガスの中、切れ落ちた尾根道やハイマツの中の踏み跡を辿るのです。