腰痛

「ウッ!」と、おもわず声が洩れ、そいつはいつも突然現れる。
たいていの場合、踏んばって重い物を抱え上げるような力む体勢ではなく、何気なく腰を屈めて下がりきる直前くらいに、5番目の腰椎あたりから脳髄に向って傷みが駆け上がる。激痛というほどではないのだが、その傷みが我が体幹を支配し、立ち上がろうとする意思を許さない。
「うわア、来たよ。来ちゃったよ!」と、心の中で叫びつつも、この時の自分は情けない。おそらく半分くらいは引きつった笑い顔で、アヘアヘとしゃがみ込み、のろのろと力なく手を伸ばして何か掴まるものを探す。

ギックリ腰、椎間板ヘルニア、座骨神経痛、医学的には少しずつ使い方が違うが、まあ要は立てなくなるほどの腰の痛みで共通する。

最初にこいつに襲いかかられたのは、二十代の頃だ。熔接で使う酸素が入った100キロのボンベを担いで歩いている時。今でも妙にはっきり想い出す。いきなり腰のあたりに傷みが走って全身の力が抜け、肩の上の重さが身体を地面に押し付けた。悪いことに雨降りの最中で、押しつぶされた場所が小さな池ほどもある水たまりの中。わずか10センチの泥水だったが、溺れるのではないかと必死でボンベをはね除け、四つん這いになって水溜りから逃れ出た。

以来、呑み過ぎ・過労・睡眠不足の三拍子が揃うと数年おきにお見えになる。しかも、歳を重ねるにつれて訪問の頻度が増し、先の3条件にいつの間にか加わった<気力の衰え>が支配的な役割を担う。最近では正月休みで精神がフヤけた頃を狙って外さない。
今では慣れっこになって、起き上がれないほどの重症になることは無いが、困ったことにちょうどその時分は雪かきの最盛期ときている。

じつは、今その腰痛にくっつかれて思うように動けない。これから除雪機で雪をはねるというのに・・。

いやいや、ダメだダメだ。このところこの欄では暗い話題ばかりブツブツとこぼしている。季節も春に向うことだし、なにか明るい話題を捜そう。