根開き

平年の根雪の終日はとっくに過ぎたというのに、関東ではもう桜が散っているというのに、腰の丈をゆうに越すほどの雪が、無言で春を遠ざけています。
それでも、山の斜面では根開き(ねびらき)が始まりました。
一年中で今がいちばん光溢れる森の中。
柔らかくそして万遍なく林床に入り込んだ太陽が、樹皮に反射して幹のまわりを解かします。
ほんの2週間ほどですが、この堅雪の季節が楽しみです。
昼間解けた雪が夜の冷気で固く締まり、音立てて跳ね上がる青々とした笹もまだ厚い布団の下。明るい森の中をツボ足のままどこまでも歩けます。イタヤの枝先には甘い滴が光り、シラカンバの幹に耳を当てると、梢に向かって吸い上げられる樹液が、密かにズズズと命の春を知らせてくれます。

遅い春でも春は春。もう少しだけ残雪期の自由が楽しめそうです。